小児の発育と母子の相互作用

 

赤ちゃんとお母様との間に共に形成される社会環境が遺伝因子と環境の相互作用を通して小児の発達に永続的な影響を与えます。赤ちゃんの発育はお母様の生まれながらの性質と育ち方に大きく影響されます。Bowlbyにより提唱されたアタッチメント(愛着)理論は母と子の関係を人間の社会-情緒の発達のモデルとして受け入れられています。赤ちゃんは初めは嗅覚、味覚、触覚といった感覚の発達や運動機能の発達により周囲の環境と反応していきますが、生後8週頃には情緒的能力が著しく発達し、互いに見詰め合うことによりお母様と赤ちゃんは無意識のうちに顔、声、ゼスチャーを通じて意思の伝達をするようになります。愛情に満ちたお母様の顔や姿は赤ちゃんに安心感を与えます。このことが新たな情緒的、肉体的環境に立ち向かう力を作り出します。お互いの情緒的やり取りを通してアタッチメントがしっかり形成されていきます。人の脳の発育は生後2年間はめざましく、情緒的やり取りによるアタッチメントの形成に伴い特に右脳の著しい発育を認めます。右脳は生きるために必要な内分泌系、免疫系、自律神経系や心血管機能を調整する部位と優位に連絡しています。このように赤ちゃんとお母様の愛情に満ちた相互作用が赤ちゃんの心の発達だけでなく成人してからの精神や身体機能に深く係わっております。また大人になって赤ちゃんを産み赤ちゃんと最初にコミュニケーションするのはお母様が赤ちゃんの時にお母様との間に形成されたアタッチメントを元に発達した右脳です。(Pediatrics in Review Vol.26No.6 2005)

当院ではこのようなお子さんとお母様の愛情に満ちた相互作用の大切さから、子供の診療だけでなく母親や妊娠中の方、これから妊娠を考えている方の健康管理にも力を入れています。